前川健一さんの本

今、タイに関する本を読んでいます。
1980年代後半から1990年代に書かれた本が
本当に多い。
日本企業の進出とタイの経済発展が始まった頃なので不思議ではない。

 

最近出版されたタイの本は、ガイドブック以外あまり
多くはないのではないでしょうか。 
アカデミックな論文のような本は出版されているのでしょうか。

 

90年代に集中して出版されている本の中には、
ボランティアやバックパッカー
タイに行っていた20代の頃に読んだことのある本もあります。
中身を覚えているような覚えていないような。
それでもう一度読みたいと思いました。
あえて、昔のタイについて感じたことを再確認したくて、
本を調べました。

  

前川健一さんは知る人ぞ知る、
タイをはじめとするアジアやアフリカの紀行で知られる方です。
20代の頃にも図書館で借りた記憶があって、
タイトルを聞いただけで、
懐かしさがこみあげてきました。

 

しかし多くの本がすでに絶版になっていて、
図書館で探して、自宅付近の図書館にはないので、
少し遠くの大きめの図書館に行って、借りてきました。

 

2週間で6冊も読まないといけないので、大変です。
もう読む人はいないでしょうか。
書庫にしまわれていました。
古い本の匂いがしました。

 

借りた中の一冊に、
バンコクの匂い』(初版:1991年7月、発行:めこん)
があります。
当時は内容がマニアックすぎて、
読んでいなかったかもしれません。
改めて読んでみると、面白くてしかたがありません。

 

本文より:

バンコクは悪女の深情けみたいな街だ。「アパート」「演歌」「船」「橋」「へんな日本料理」「マーブンクロンの喧騒」…。テーマを6つに絞って、じっくり書き込んでみました。劇的な変貌を遂げるバンコクの町角にたたずみ、究極の旅人のウンチクに耳を傾けましょう。ちょっぴり哀愁ただよう本です。』

 

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図書館で借りた『バンコクの匂い』表紙は取れてしまっている。


面白い理由。
筆者の目の付け所がすごい。
いち旅行者として、「うわ、何だこれ」、「面白い」と思っても、
それきり通りすぎて忘れてしまうようなことを、
ちゃんと立ち止まり、この「うわっ」ていう感情を言語化して、
違和感や面白さをじっくり味わっている。

 

こんな面白い本があったのかと思った。
ただ通り過ぎるだけの旅人ではない人がタイを見ると、
ものすごい色々な気づきがある。
時代と共にすっかり変わってしまうものがある一方で、
いつまでも変わらないものもあるのかな・・・。


今は確認のしようがないけど(タイに行けないので)、
確かめてみたい衝動にかられます。

 

しかし、あれから30年。
変わっていないわけがない。
MBK(マーブンクロンセンター)のホームページを見て、
あああ、すっかりきれいになってしまったと
がっかりしました(普通はがっかりするところじゃないけど)。



この本の中に出てくるような、
「カセットテープのボリューム合戦」ももう聞くことは
できないのでしょう。
1月末にはあの東急百貨店も閉店してしまい、
35年の歴史に幕を閉じました。

 

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めこん『バンコクの匂い』(前川健一さん)掲載のMBKの店舗の写真。

私の「タイが好き」は多くの人が感じること
と共通かもしれないけれど、
「何でもあり」「(良い意味でも)適当」である点です。

日本と違うということ。
日本では当たり前のことが当たり前でない。
それが海外旅行の醍醐味なのだけど、
タイには全てを溶かしてしまうようなゆるさがあります。

  

その点を微に入り細に入り、
説明してくれているのが前川さんの本です。 

 

前川さんの本を読んでいると、
あの頃のバンコクをもう一度
目の前で体験しているような
不思議な感覚になります。